絵空事でも
買い物からの帰り道、アルルはあるショーウィンドウの前で足を止めた。野菜とルーを抱えたまましばし見入る。展示されているのは純白のウェディングドレス。白さ艶やかさになぜか心がざわめいた。
夢想する。「彼」の隣でこれを身にまとっている自分を。幸せそうに微笑んで誓いのくちづけを交わしたりする姿を。それは絵空事でしかないのだけれど。でも。
「なんだ。お前でも興味あるのか?」
背後からの声にびくりとする。
「な、なんだよいきなりシェゾ!」
突然の「彼」の登場に声が裏返る。頬が熱い。ついさっきまでの自分の空想が駄々漏れていないか心配になる。そんなことあるわけないのだけれど。
「シェゾはさ、誰かと結婚しないの?」
ごまかすためにいい加減にふった話題にシェゾは小ばかにしてような笑った。
「は。俺をなんだと思ってる?」
「変態」
「誰がだ」
お決まりの台詞につっこみはひとことだけ。これはこれで寂しい。
「闇の魔導師と添い遂げようなんざ狂気の沙汰だぜ?」
今日は急いでるから見逃してやると、鼻で笑ってきびすを返すシェゾをアルルは黙って見送った。黒い背中はすぐに雑踏にまぎれて行った。
「馬鹿」
言葉がこぼれ落ちる。
「馬鹿、変態、とうへんぼく!」
あふれ出してとまらない。
「馬鹿、変態、とうへんぼく、あほ、どんかん、朴念仁、魔導おたく!!」
もう一度ショウウィンドウを見上げた。白さ艶やかさがむしろ腹立たしい。こちらのことなんか気にもとめない。ひたすら超然としたさまは正反対の色彩のあの黒い背中を想起させる。
あの変態に明らかに惹かれてる自分に苛立つ。
空想に胸を高鳴らせたことが腹立たしい。
絵空事でも。
それでもぼくは望んでしまうんだよ。
ただきみを愛し、愛される未来を。
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