自覚前というやつ
うまく言えない

「アルルはあいつのことなんだと思ってるわけ?」
「変態」
 場が一時停止。
 街のカフェ。アルルとルルーが向かい合って座っていた。街を歩いていたアルルをルルーが引き止めたのだ。ちょっとききたいことがある、と。
「ききたいことってそれだけ?」
 ならぼくもう行くよ、と席を立ちかけたアルルをルルーが引き止める。
「ちょとお待ちなさい」
 ルルーの怪力にかなり本気で引き止められてアルルはやむなく席に戻った。
「なんだよー」
「だってあんたこの前あいつを家に呼んだとか言ってたじゃない」
「呼んだんじゃなくて運んだんだけどね。だって魔導力使い切っちゃったんだもん。ヒーリングの代わりだよ」
「夕飯作ってやったって話も聞いたわよ」
「ここんとこまともに食べてないっていうからさ」
 かみ合ってるようでかみ合わない会話。ルルーは深呼吸して別のアプローチを試みる。
「たとえばよ?ラグナスが倒れてたり絶食してたらあんたは同じことをしてやるわけ?」
 その問にアルルはきょとん、と目を見開いた。
「ラグナスが後先考えずに喧嘩吹っかけてきたあげくあっさり倒されたり、貧乏のあまり絶食したりするわけないじゃん」
 どうにもあさっての方角にとっ散らかるやりとりに、気が長いとはいえないルルーはぶちぎれた。
「とにかく!あんたのはどー見ても只の『変態』さんに対する態度じゃないって言ってるの!」
「えー?」
 ルルーの剣幕がものすごいのでアルルも一応胸に手を当てて考えてみる。

 変態だとは思うけど敵だとは(少なくともアルルは)思っていない。
 それじゃあアルルにとってシェゾは何なのか。
 仲間?友達?確かにそれもあるけれど・・・。

「よく分かんないや」
「はぁ?」
「うまく言えないけど、ほっとけないっていうか。もちろんルルーやラグナスや他の友達が困ってたらやっぱりほっとけないけど、でもシェゾのことはぼくがなんとかしたいっていうかさ・・・」
 視線を宙に泳がせ、アルルにはめずらしくぽそぽそとしゃべる声がさらに小さくなっていく。

「難儀ねぇ」
 今度こそアルルは立ち去り、カフェにはルルーだけが残された。
 とっとと自覚してとっととくっついてくれればサタンさまもアルルを諦めて私を見てくださるのに。
 胸中で愚痴をこぼしつつルルーはひとりカップに口をつけた。

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