一輪の華
街外れ。街道から少し離れた場所にその花は咲いている。
「変わらないなー」
小高い丘の上。ぼくは数年ぶりになる街を見下ろした。
遠くから見る町並みは相変わらずで、きっと懐かしい人たちが相変わらずの暮らしをしているのだろう。
そこまで考えてずきりと心が痛くなった。
懐かしいひとたちのことを考えるとどうしても思い出してしまうひとがいる。
思い出してしまう場所がある。
あの場所も変わらないのだろうか。
ぼくは街道を外れて獣道に分け入った。
草を掻き分けながらしばらく進むと拓けた場所に出た。
緑豊かな森の中でその一帯だけは草一本生えていない。
あたりには魔導力の残滓が漂い、心なしか息苦しい。
そのなかでぽつんと花が一輪だけ咲いていた。
黒い花。
「シェゾ・・・。」
闇の魔導師シェゾ・ウィグィィ。
ぼくのちからを奪うために何度も何度も戦いを挑んできて、負けて。
それは日常だった。
馴れ合ってじゃれ合って、いつしか好意すら抱いていたと思う。
だけど。
あの日あの時。
『終わりだな』
振り下ろされた闇の刃。
瞳に宿る蒼い殺意。シェゾは何処までも本気だった。
ぼくは何も考えられずに、無我夢中で本能だけで魔導を練り上げて放った。
気がついたときあたりは荒野になっていた。そこにいたのはぼくひとりだけだった。
シェゾの影も形も見えなくなって、ただ彼がいた場所に黒い花が一輪だけ残されていた。
「はは・・・。」
ほんとに笑っちゃうよ。
死んで花になるなんてさ。
柄じゃないにもほどがある。
いつか言ってたよね。闇の花を咲かせるって。
ねぇ、満足?
これできみは満足なの?
街外れ。街道から少し離れた場所にその花は咲いている。
その場所で死んだひとの色。暗いくらい闇の色の華。
その花は枯れない。きっと、永遠に。
在り続ける。
ぼくのこころにも。
咲き続ける一輪の闇の花。
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