遺品

「くだらん」
　シェゾ・ウィグィィは青いスカーフを手につぶやいた。
　その布は数日前まである少女のものだった。
　アルル･ナジャ。
　魔導師の卵。
　彼女は今はもういない。
　シェゾは形見分けになど当然行かなかったのだが、彼女の友人たちが徒党を組んで押し寄せてそれを押し付けていったのだ。
　いいから貰え、粗末にはするなよ、と。
「そう思うなら俺なんぞに渡してるんじゃねぇよ」
　嗤って橋の上から川に投げ捨てた。
　ひらり、ひらりと風に舞うそれにふいにアルルを重ね、そんな自分を嘲笑った。
　スカーフが川に落ちたのを見届けて立ち去ろうとした時。
「まってよシェゾ」
　背後から少女の声。聞き間違いようの無い声。ありえない声。
「ねぇ、いつもいつもほしいって言ってたじゃないか」
　首筋になにかの感触が触れる。肌が泡立つ。闇の魔導師の本能が警告する。
　危険危険危険――。
「それなのにどうして」
　振り返ろうとして、しかし何かが首に巻きついて適わず、その何かは気管を圧迫していく。
　闇に墜ちていく意識の中、少女の声だけが響く。
「すてていくの―？」

　翌日。橋の上でシェゾ・ウィグィィの死体が発見された。
　死因は布のようなものによる絞殺と推定されたが、凶器も、犯人も見つかることはなかった。


ＢＡＣＫ